空いっぱいに飴玉のような満月が輝く夜、
ほろ酔い気分で
石畳の街路を歩いていると、
建物の角を曲がったところで
お星さまに出くわした。
向こうも相当酔っているらしく、
出会い頭に、思い切りおでことおでこを、
がっちんこした瞬間、
互いに後ろへ尻もちをついた。
「貴様だな」
さっと立ち上がり、
お星さまが構えの姿勢を取った。
「そうだ。貴様だ」と僕が答えた。
「じゃあ、本当の貴様を出せ」とお星さま。
「ここにいるっ」と僕。
「そんなことを言っているんじゃない」
「貴様こそ、軌道を逸れてこんなところを
うろついてるんじゃないぞ。」と僕が返した。
「そんなことを言い返している
貴様じゃない貴様はどこだ。出てこいっ」
「貴様貴様って、なんだ貴様は!」
「うるさいぞっ。
貴様貴様と言っている貴様じゃない貴様は
どこにいるのかと聞いているんだ」
それからしばし黙って対峙し合ったかと
思うと、突然お星さまがボンとこちらへ
頭突きを食らわせてきた。
一瞬頭が真っ白になったかと思うと、
気づいた時には自分もお星さまになって、
夜空から街路を見下ろしていた。