ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

神様を逃した話

ある晩秋の夕暮れ時、 僕は小型バイクを運転し、 家路を急いでいた。 広い道で信号待ちをしていると、 民家の影から一人の太った老婆が 飛び出してきた。 黒く汚れた布を頭からほっ被りにし、 擦り切れて穴の開いたズボンに、 色の褪せた 綿入りのポンチョを…

言葉のあじ

コーヒーでも飲もうと思い、 スタンド式のカフェに入ると、 カウンターではコーヒーを注文する人たちの 長い列ができていた。 仕方なく列の最後尾に並び、 やっと自分の番が来た。 「何になさいますか」 店員がメニューを差し出した。 メニューには「コーヒ…

時計回りの人

会議の席でのこと。 いかに自分が 素晴らしい実績を上げているか、 ということをT氏が得々と語っていた。 彼の話は一向に終わらず、 誰かが他の人の功績を褒めれば、 その人をいかに上手く手助けしたかを、 自慢げに延々と述べ続ける始末だった。 「オレは…

陽、極まる

満月の夜のことだった。 僕はこの日、 入会したばかりのジムで筋トレをしていた。 さまざまなマシンが並ぶ、 人気(ひとけ)のないフロアで、 僕は茶色い鉄がむき出しになった ダンベルを適当に上げ下げしていた。 しばらくすると、 一人の筋骨逞しい男がやっ…

流星に乗った人

街でもっとも高い建造物である 貯水塔のはしごを、 十歳くらいの子供が登っているというので 急いで表へ出て見てみた。 地上ではすでにたくさんの見物人が 集まっていて、みな口々に、 彼は流星を捕まえるらしい、とか、 流星を捕まえたとしても焼け焦げてし…

ちょっとしたおしゃべり

「何もないのにどうしてやつはあんなに 悲しんでいるんだ。何もないのに」 と太陽が地球を見て言った。 「何かあるから悲しんでいるんでしょうよ」 と月が答えた。 「そんなことあるものか」 「それじゃあ、 直接聞いてみればいいでしょう。 なんで悲しんで…

彗星がチェックインした話

ホテルのロビーでチェックインしようすると、 狐のような眼をした女性スタッフから、 今日は満室だと告げられた。 「そんな。ちゃんと予約しましたよ」 僕は抗議した。 だが、今日は急な団体客があり、 部屋はないのだという。 「ひと部屋もないのですか」と…

望郷

もう、それは懐かしくて。 とてつもなく懐かしくて。 切なくて、狂おしいほどに懐かしくて。

ハートフクロウの逆襲

夜道でいきなり 大きなフクロウと鉢合わせになった。 顔の形がハート型だったので、 ハートフクロウだとすぐに判別できた。 こんにちは、 と挨拶をして通り過ぎようとしたら、 すれ違いざま、ハートフクロウがすっ、 と僕のみぞおちの辺りに体当たりして来て…

宇宙の母

雨があがったばかりの満月の夜、 ススキが生い茂る土手の上を 歩いていると、 大きなまんまるいお月さまを背に、 おかっぱ頭の女性がひとり、 土手の中腹にしゃがみこんでいるのが 見えた。 「どうしたのですか」僕が声をかけた。 「あと一個なんですけど、 …