ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

星の子の主張

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ある日、生まれたばかりの星の子が、

 

お日様とひとつになるのだ、と言いだした。

 

もちろん周囲の星たちは

 

全力で引き止めようとしたが、

 

星の子はさんざん駄々をこねた挙句、

 

そのまま、

 

お日さまめがけて突進して行ってしまった。

 

「あれだけ忠告してやったのに、

 

ほんとにバカだよ」

 

「すぐに黒こげになってしまうのは

 

目に見えているのにさ」

 

「嬉々として突進していくなんて、

 

本当にどうかしているね」

 

「でも、まだ若いのにもったいないわね」

 

周囲の星たちは、口々に噂しあった。

 

「でも、近くでお日さまに飛び込む星の子を

 

目撃した水星の話によると、

 

ヤツは恍惚の表情で、

 

狂喜乱舞していたらしいよ」

 

「そんなことあるものか。

 

星の子がお日さまに近づいただけで、

 

跡形もなく溶けてしまうんだからね。

 

恍惚とする間なんて

 

あるわけないじゃないか」

 

誰かがそう言うと、

 

遠くから水星の声が聞こえてきた。

 

「ちょっと。聞き捨てならないこと言うわね。

 

それじゃあ、わたしが嘘をついている

 

とでもいうの?

 

わたしはお日さまとひとつになろうとする

 

瞬間の星の子の叫びを

 

聞いたんですからね」

 

「へえ。星の子はなんて叫んだんだい?」

 

星たちが訊いた。

 

「なんて叫んだと思う?」水星が訊き返す。

 

「なあに。苦しみの悲鳴を上げたのさ」

 

「まさに後悔の叫びだな」

 

「本当にかわいそうだね」

 

星たちは一斉に呟いた。

 

「もったいつけずに早く教えてくれよ」

 

「星の子はね。こう叫んだのよ」

 

それから、水星はこれ以上の喜びを

 

表現できないというような口調で、

 

ひゃっほーい、と叫んだ。