ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

まるいち

f:id:shusaku1:20211217012615j:plain

 

最近、目の前に、

 

無数の〝まるいち〟が飛ぶようになった。

 

まるいちというのは、

 

棒のような細長い胴体に、

 

半透明の丸い羽を持つ、

 

直径1ミリほどの小さな昆虫で、飛ぶときに

 

羽を円になるように三六〇度広げたり、

 

すぼめたりして飛び、その様子が、

 

丸に見えたり、数字の1に見えたりするので

 

まるいちと呼ばれていた。

 

非常に小さいうえに、

 

物体の裏側にしか存在できないため、

 

これまで、滅多に見かけることはなかった。

 

しかし、最近、このまるいちに

 

異変が起きているのだという。

 

というのも、まるいちは、

 

羽を〝まる〟のカタチに広げたり、

 

〝いち〟のカタチにすぼめたりすることで

 

空中に浮遊するのだが、ここへきて、

 

〝まる〟と〝いち〟のカタチを

 

同時に維持させたまま浮遊している

 

まるいちが急増していることが、

 

専門家チームの調査でわかった。

 

やがて、様々な議論が巻き起こった。

 

 

決して直視することのできないモノの裏側で

 

なにか重大な変革が起きている、

 

と言うまるいちの専門家や、

 

これは天変地異の前触れにちがいない、

 

と唱える自然学者、

 

またこれは次元の壁がなくなる前兆である、

 

と主張する物理学者など、

 

多くの意見が飛び交ったが、

 

どれも、核心には至らずじまいだった。

 

そして、この報を聞いたとき、僕は、

 

やっと世界は〝まる〟と〝いち〟ではなく、

 

完全な〝まるいち〟になるのだなと思った。