2020-11-25 言葉のあじ コーヒーでも飲もうと思い、 スタンド式のカフェに入ると、 カウンターではコーヒーを注文する人たちの 長い列ができていた。 仕方なく列の最後尾に並び、 やっと自分の番が来た。 「何になさいますか」 店員がメニューを差し出した。 メニューには「コーヒー」「coffee」「café」 「珈琲」「こ~ひ~」「カフィ」というふうに、 いろいろなコーヒーがあった。 「あのう。これってただ書き方が違うだけで、 みんな同じコーヒーなんじゃ……」 僕は店員に質問した。 「珈琲とcoffeeでは全然違いますよ」 店員はこれしたり、といった顔つきで 首を横に振りながら言った。 「ええっ、何がどう違うんですか?」 「構造自体が違います。音が違うんです。 それはもう男と女ほどに違いますよ」 「ああ、もうちょっとあんた。 つべこべ言ってないで 両方試してみればわかるわよ」 背後から夫人の声がした。 見れば、後ろに並んでいる人たちが イライラした様子でこちらを睨んでいる。 「じゃあ、とりあえず珈琲をください」 珈琲が入ったカップを持って テーブルについた。一口すする。 強いコーヒーの酸味が口中に広がった。 そして、花火の火薬のような匂いがした。 「なんだ、普通のコーヒーじゃないか」 そう思っていると、 突然言いようのない苦みが喉の奥を、 ガガガガーっ、と駆け下りていったので、 慌てて吐き出してみると、 それは、陽子の塊りだった。