ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

言葉のあじ

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コーヒーでも飲もうと思い、

 

スタンド式のカフェに入ると、

 

カウンターではコーヒーを注文する人たちの

 

長い列ができていた。

 

仕方なく列の最後尾に並び、

 

やっと自分の番が来た。

 

「何になさいますか」

 

店員がメニューを差し出した。

 

メニューには「コーヒー」「coffee」「café」

 

「珈琲」「こ~ひ~」「カフィ」というふうに、

 

いろいろなコーヒーがあった。

 

「あのう。これってただ書き方が違うだけで、

 

みんな同じコーヒーなんじゃ……」

 

僕は店員に質問した。

 

「珈琲とcoffeeでは全然違いますよ」

 

店員はこれしたり、といった顔つきで

 

首を横に振りながら言った。

 

「ええっ、何がどう違うんですか?」

 

「構造自体が違います。音が違うんです。

 

それはもう男と女ほどに違いますよ」

 

「ああ、もうちょっとあんた。

 

つべこべ言ってないで

 

両方試してみればわかるわよ」

 

背後から夫人の声がした。

 

見れば、後ろに並んでいる人たちが

 

イライラした様子でこちらを睨んでいる。

 

「じゃあ、とりあえず珈琲をください」

 

珈琲が入ったカップを持って

 

テーブルについた。一口すする。

 

強いコーヒーの酸味が口中に広がった。

 

そして、花火の火薬のような匂いがした。

 

「なんだ、普通のコーヒーじゃないか」

 

そう思っていると、

 

突然言いようのない苦みが喉の奥を、

 

ガガガガーっ、と駆け下りていったので、

 

慌てて吐き出してみると、

 

それは、陽子の塊りだった。