ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

時計回りの人

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会議の席でのこと。

 

いかに自分が

 

素晴らしい実績を上げているか、

 

ということをT氏が得々と語っていた。

 

彼の話は一向に終わらず、

 

誰かが他の人の功績を褒めれば、

 

その人をいかに上手く手助けしたかを、

 

自慢げに延々と述べ続ける始末だった。

 

「オレはなあ。オレが。そう、オレだよ」

 

もう誰にも止められない。

 

そうこうしているうちにT氏は、席を立ち、

 

まるで狐に憑かれたかのように

 

両手をグーの形にして胸の前で揃え、

 

その場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら

 

時計回りに回転しだした。

 

「だからあ、オレなんだよ。オレがさあ」

 

そう言いながらあごを突き出し、

 

眼をひんむいて回転する。

 

「ああ、こいつ、オチ(、、)たな」

 

隣で様子をていたS氏が呟いた。

 

T氏の回転はますます速度を増し、

 

しまいにT氏の身体が、

 

まるで一個の壷のような形に見え始めた。

 

「おい。これはやばいぞ。

 

誰か柄の長い棒か何かを持ってきてくれ」

 

S氏の指示に、誰かがモップを持ってきた。

 

「こっちからモップの柄を差し入れるから、

 

反対側でその柄の先を掴め。

 

すごい衝撃だから気をつけろよ。

 

一緒に振り回されたら自分もオチるぞ!」

 

せーの、の掛け声とともに、何人かで、

 

回転しているT氏の中へ

 

モップの柄を突き刺した。

 

と、向こう側にいた者達が、

 

すばやい動作で柄の先を受け止めた。

 

すごい衝撃だったが、

 

回転していたT氏の両手が上手い具合に

 

柄の上へ引っかかってくれた。

 

一瞬T氏の回転が止まった。

 

「いまだ。反対方向へ回せ!」

 

よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ。

 

それでもまだ時計回りに回ろうとする

 

彼の身体を、臼を引くような要領で、

 

モップを時計と反対周りに回しはじめた。

 

「うううう」

 

T氏が両手をほうきの柄に引っ掛けたまま

 

白目をむいて叫びはじめた。

 

「お、おまえは、おまえがあ、そうだ、

 

みんなおまえなんだよおぉぉォォーッ!」

 

そしてついにT氏は耳をつんざくような

 

雄たけびを上げたかと思うと、

 

泡を噴いてその場に倒れてしまった。