ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

ハートフクロウの逆襲

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夜道でいきなり

 

大きなフクロウと鉢合わせになった。

 

顔の形がハート型だったので、

 

ハートフクロウだとすぐに判別できた。

 

こんにちは、

 

と挨拶をして通り過ぎようとしたら、

 

すれ違いざま、ハートフクロウがすっ、

 

と僕のみぞおちの辺りに体当たりして来て、

 

そのまま僕の胸の中に留まってしまった。

 

その夜、ハートフクロウが

 

僕の中で羽をばたつかせるたび、

 

みぞおちの少し奥のあたりがざわざわして、

 

いてもたってもいられなくなった。

 

「僕の中に潜り込むのは構わないけど、

 

もう少し静かにしてくれないかな。

 

胸がざわざわして仕方がないんだ」

 

僕は自分のみぞおちを軽くたたきながら

 

言った。

 

しかし、僕が懇願すればするほど、

 

ハートフクロウはさらに羽をばたつかせ、

 

僕の心を一層かき乱した。

 

「おとなしくしないのなら、

 

 出て行ってもらうぞ」

 

どうにも我慢の限界に達した僕が

 

大声で一喝すると、

 

ハートフクロウは一瞬おとなしくなったか

 

と思うと、急に僕のみぞおちから、

 

すっ、と飛び出て、いなくなってしまった。

 

静寂が戻った。

 

僕はやれやれと胸をなでおろした。

 

が、ざわざわがなくなったらしなくなったで、

 

どこか物足りないような、

 

何かが欠けてしまったような、

 

胸に穴があいてしまったような、

 

何とも言えない空虚な気持ちが

 

込み上げてきて、たまらなくなった。

 

「さっきは、怒鳴ったりしてごめんよ」

 

僕は謝った。

 

が、聞こえてくるのは心臓の鼓動ばかりだ。

 

もうハートフクロウが

 

戻ってくることはないのだ、と思うと

 

寂しくて涙が込み上げてきた。

 

「僕の中で

 

 どんなに暴れまわってもいいからさ。

 

 戻ってきてくれよ」

 

僕はどこにいるかわからない

 

ハートフクロウに向かって言った。

 

一瞬、

 

みぞおちの辺りが、ざわっ、と疼いた。

 

みぞおちの中でハートフクロウが羽を広げ、

 

大きく伸びをするのが感じられた。

 

ハートフクロウが出て行った、

 

と思ったのはただの勘違いで、

 

彼はただ眠っていただけだったのだ、

 

ということに気づき、

 

僕は心底安堵したのだった。