ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

流星の如く

 

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冷え込みの激しい冬の夜のこと。

 

僕はコートの襟を立て、

 

一人夜道を歩いていた。

 

小さな木の橋を渡ろうとすると、

 

どこに潜んでいたのか、

 

突然一人の女性と二人の男性が現われた。

 

そして、

 

いきなりお金を恵んで欲しいと言ってきた。

 

「わたしたちはよその国から来たのですが、

 

今夜旅館に泊まるお金がないのです。

 

今晩の宿代だけでも

 

助けていただけませんか」

 

女性が言った。

 

彼女が着ている灰色のコートは、

 

手垢でテカテカと黒光りしている。

 

後ろの男性二人も、

 

よれよれのセーター一枚きりで、

 

がちがちと唇を震わせながら、

 

僕に向かって

 

ぺこぺこと何度も頭を下げていた。

 

僕は財布を取り出して中身を見た。

 

お札(さつ)が数枚と

 

小銭がいくらか入っていた。

 

一瞬僕は小銭を取り出して彼女を見た。

 

その瞬間、

 

強烈な懐かしさが込み上げてきた。

 

僕は財布の中にあったお金を

 

全て取り出し、

 

彼女のほうへそっと差し出した。

 

彼女は息を呑むような表情で

 

手の中のお金を注視していたが、

 

やがて、満面の笑みで〝ありがとう〟

 

と告げると、

 

三人は流星のごとく走り去って行った。

 

その速さは本当に目を見張るようで、

 

最後には光のスジを作りながら、

 

ビルの角へさっ、と

 

消えていってしまったのだった。