ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

ハート掃除人

f:id:shusaku1:20210526033439j:plain

 

家でコクの実で淹れたお茶を飲んでいると、

窓の外を詰まり掃除人の

「つまり~つまり。つまり~、つまりっ」

という掛け声が聞こえたので、

呼び止めて入ってきてもらった。

「こんにちは。どんな感じですか」

詰まり掃除人の男が

黒革の大きなバッグの中から

様々な器具を取り出しながら言った。

「最近、なかなか一致させたところに

飛ばないんです。

ちょっと反応が悪いみたいで」

僕がそう説明すると、

男は僕の背後へまわり、

棒のような器具を背中の真ん中に

ぐりぐりと押し当てると、しばらく何かを

感知するように押し黙った。

「かなり詰まってますねえ」

棒を離し、男が言った。

「〝考えの錆〟がパイプを詰まらせて

います。最近、何かありましたか?」

「ええ、まあいろいろと」

「そうですか。でもまあ、大丈夫でしょう」

それから、掃除人の男は、鞄の中から

丸い突起のついた金属の棒を取り出した。

僕のみぞおちの辺りにその棒を突き立て、

くるくると回せば、体に突起がずんずんと

食い込んでいった。

棒が半分ほどみぞおちに埋まったところで、

掃除人が小型の掃除機のような機械を

取り出し、ダクトをその棒に連結させた。

「じゃあ、はじめますね」

掃除人がそう言って機械のスイッチを

入れた。

ういーん、ういーん、と機械が唸り、

何かに吸い込まれるように体内で圧が

高まった。

「どうですか。」と、掃除人。

「すごい吸引力ですね」

振動に声を震わせながら僕が答えた。

「この機械は新機種なんですよ。吸引力が

以前の機種の一・五倍もあるんですよ」

だが、吸われれば吸われるほど、

みぞおちの奥に

何か大きな塊りがつっかえているようで、

気持ちが悪かった。

機械は空回りするように、ういんういん、

と大きな悲鳴を上げている。

「もう少し吸引圧をあげてみましょう」

掃除人つまみを回せば、うぃんうぃんうぃん

と、さらに激しくモーターが唸った。

「ああ、ちょっと苦しい」

「やめますか」

「いや、マックスまで上げてください」

掃除人がつまみをマックスまで上げた。

激しく胸が圧迫される。

「抵抗を止めるんです。何も考えずに、

もっと軌道を大きく開けて」

身体にかかる圧が最高潮に達し、

もう壊れる、と思った瞬間、

スーッ、ポーンッ、という小気味よい音が

体内で響いたかと思うと、詰まっていた

何かが吸い取られたのを感じた。

同時に、身体のつかえが取れ、

すっと楽になった。

「ほら、これが詰まりの原因ですよ」

機械を停め、掃除人が機械の本体を

ぱかっと開け、タンクの中に溜まったものを

見せてくれた。

中には黒いドロドロした塊りがあり、

酸っぱいにおいを放っていた。

「うわ、こんなのをずっと隠し持っていた

なんて、ぞっとしますね」

「でも、最近は詰まっても、

自分で除去できる人が多くなってきたので、

この商売も上がったりですよ。

わたしも今月いっぱいで店じまいです」

掃除人は器具をしまいながら

寂しそうに言った。

そして、僕から料金を受け取ると、

礼を言って帰っていった。

その夜、急に通りのよくなったハートの奥に

大きな力が流れこんでくるのを感じた。

でも、これからどうやって、

この詰まりを掃除すればいいのか、

僕は考え込んでしまった。