ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

神様をまた逃した話

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よく晴れた日曜の午後、

 

街を歩いていると、一人の女性が突然、

 

人ごみの中から現われ、

 

僕に話しかけてきた。

 

「財布を落として困っています。

 

 家に帰るバス代を恵んでくれませんか」

 

僕は彼女の姿をまじまじと見つめた。

 

長い髪を真ん中で分け、

 

胸に「OH! MY GOD!」と書かれた

 

白いTシャツを着ている。

 

眉が太く、浅黒い顔はニキビだらけだ。

 

「財布の中にある小銭でいいんです」

 

彼女が僕の腕を掴んで言った。

 

彼女に腕を掴まれた瞬間、僕はなぜか

 

とても懐かしい気持ちに襲われた。

 

僕はズボンのポケットから

 

財布を取り出した。

 

「実は今日、まだ何も食べていないんです。

 

 よければパンを何個か買えるだけのお金を

 

 もらえたら嬉しいんですけど」

 

彼女は上目遣いにもじもじしている。

 

僕は小銭入れの中を見た。

 

銅貨が数枚入っていたが、

 

これではパン1個分くらいにしかならない

 

だろう。

 

あとは大きな紙幣だけだった。

 

まあいいか。

 

僕はその銅銭を彼女に渡した。

 

彼女は

 

それらの小銭をじっと見つめていたが、

 

やがて目だけを僕のほうに向けると、

 

肩をすぼめてくすっと笑い、

 

それからものすごい速さで

 

走り去って行ってしまった。