ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

地球のタネ

半径20メートルくらいの輪(わ)の上で 二人の人間が向かい合って立ち、 それからその輪の上を、 同じ方向に向かって互いにぐるぐるぐるぐる 回り続けるというゲームをしていた。 追いついて 相手の背中にタッチできれば勝ちだ。 一人が全力で輪の上を回れば…

わわーっと駆け下りたもの

ハロウィンの夜だった。 僕は飛行機に乗っていた。 コートを預け、広々としたファーストクラスの 座席に腰をおろすと、真っ赤な口紅を つけた客室乗務員の女性が、 シャンパンが入ったグラスを、 トレイに載せて持ってきてくれた。 グラスを受け取り、飲もう…

苔(こけ)の木谷まで

バーでしこたまジンを飲んだ夜、 バーの前で客待ちをしていたタクシーに 飛び乗り、家路についた。 「楓(かえで)の森までお願いします」 僕が行き先を告げると、 運転手は面倒くさそうな表情で 車を発車させた。 しかし、途中まできたとき、 僕は自分の家で…

主張する植物

朝から喉が渇き、水ばかり飲んでいた。 ふと部屋にある観葉植物を見れば、 鉢の中の土がからからに乾いていた。 僕はジョウロを取り出し、洗面所へ向かった。 「植物はかわいそうだな。自分の力で自由に 水も飲みに行けないのだから」 こんなひとりごとを呟…

弱虫N氏

星がまたたく夜、 床一面に枯葉が敷きつめられたバーで、 僕はN氏とバーボンを飲んでいた。 「なあ、キミ」N氏が言った。 「なんですか」僕が答えた。 「ちょっと僕になってみる気はないかな」 「えっ?」僕がN氏を見た。 「まあ君にその気があればの話だ…