ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

弱虫N氏

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星がまたたく夜、

 

床一面に枯葉が敷きつめられたバーで、

 

僕はN氏とバーボンを飲んでいた。

 

「なあ、キミ」N氏が言った。

 

「なんですか」僕が答えた。

 

「ちょっと僕になってみる気はないかな」

 

「えっ?」僕がN氏を見た。

 

「まあ君にその気があればの話だが」

 

見ると、N氏は手にしたバーボンのグラスを

 

見つめながら薄笑みを浮かべている。

 

「僕があなたになってしまえば、

 

あなたはどうなるんですか」

 

僕がN氏に質問した。

 

「大丈夫。問題ないよ」

 

自分の胸の前で右手の人差し指を立てながら

 

N氏が言った。

 

「僕は星か、君かの、どちらかになるから」

 

琥珀色に光るバーボンを、

 

N氏が一気に飲み干した。

 

グラスの氷を揺らしながら話すN氏を見ている

 

うち、僕はなぜかむかっ腹が立ってきて、

 

しまいにはカウンターをばんと手で叩いていた。

 

「ふん、だれが君を星になんか。

 

ましてや君を僕なんかにさせるものか」

 

僕はN氏を指差して言った。

 

「何だと。この弱虫野郎!」

 

次の瞬間、

 

僕はN氏に胸ぐらをつかまれていた。

 

「ああ、弱虫でけっこう」

 

僕もN氏の胸ぐらをつかみ返そうとしたが、

 

そのときにはもう彼は青白い光を放ち始めて

 

いて、やばい、と思ったときには手遅れだった。