ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

地球のタネ

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半径20メートルくらいの輪(わ)の上で

 

二人の人間が向かい合って立ち、

 

それからその輪の上を、

 

同じ方向に向かって互いにぐるぐるぐるぐる

 

回り続けるというゲームをしていた。

 

追いついて

 

相手の背中にタッチできれば勝ちだ。

 

一人が全力で輪の上を回れば、

 

もう一方の相手も速度を上げる。

 

逆に一方が疲れて少し速度を落とすと、

 

相手も同じように疲れたらしく

 

速度を落とした。

 

そんなこんなで

 

二人の距離は一向に縮まらない。

 

イライラした一方の一人が何を思ったのか、

 

突然向きを変え、輪の上を逆走し始めた。

 

案の定、

 

あっという間に相手と鉢合わせになり、

 

わっ、と相手にぶつかった瞬間、

 

一方がもう一方にぱくりと呑み込まれて

 

しまった、という話を、月曜日のバーで、

 

たまたま隣に座っていた人から聞いた。

 

「呑み込まれた人はどうなったか?」

 

隣りの男は右手の人差し指を立て、

 

こちらの目をじっと覗き込んできた。

 

「どうなったんですか?」僕が訊いた。

 

「〝タネ〟になったんだよ」男が答えた。

 

「なんのタネになったんですか」

 

「タネと言えば、そんなの…」

 

こいつ、馬鹿じゃないか、といった目つきで

 

男が僕を見た。

 

「新しい地球にきまっているだろう」

 

その瞬間、急激に酔いが回り、

 

僕は目を回してその場に倒れてしまった。