ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

終わらない花火

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銀杏の丘の斜面に腰かけ、

大勢の見物人たちと一緒に、

打ちあがる花火を見ていた。

暗い夜空に光の筋が上がり、

目の前でバンッ、と明るい火花がはじける。

見物人たちは「ワァーっ」とか「すごーい」

と叫びながら、

色とりどりの花火を楽しんでいる。

光の球体の中にもう一つ、

金色の小さな球体が重なった花火が

ぱっと空中に開いた。

「おお、歓びの玉だ。

歓びの玉が出てきたぞ!」

と誰かが指さし、叫んだ。

歓びの玉は次から次へと打ち上げられ、

それはすごい数だったので、

互いに球と球が重なりあい、

交わりあって、しまいには夜空一面が

金色の光の海と化した。

最後にしだれ柳のような花火が

長時間吹きあがり、

空中で光の線条が跳ね返って

見物人たちの頭上へ降り注いできた。

「うわあ。フェスティバル!フェスティバル!」光のシャワーの中で、

人々が歓喜の叫びをあげる。

花火が止んだ。暗闇が戻った。

そのとき周囲にいた見物人の幾人かが

光の玉に包まれ、夜空へと上昇していく

のが見えた。

僕も上昇しようとした。

しかし、突然誰かに手首を掴まれ、

押しとどめられてしまった。

僕はただ切ない感情を抱きながら、

上昇していく人々の光の玉を、ただただ

いつまでも見上げているしかなかった。