ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

小人天狗

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ホテルの部屋で、

 

紅茶を飲みながら物語を書いていたとき、

 

部屋の隅をたくさんの小さな何かが、

 

ちょこちょこ動き回るので、

 

何かな、と思って目を凝らしてみると、

 

豆粒大の小人天狗が、

 

テーブルの脚を滑り下り、

 

カーテンの陰へ走り去るのが見えた。

 

麻でできた、法衣のような衣を身にまとい、

 

胸にはぼんぼりのついた

 

結袈裟までつけている。

 

まあ、

 

そのうち消えるだろうと放っておいたら、

 

小人天狗の数はどんどん増えてゆき、

 

今度は僕の髪の毛の間に忍び込んだり、

 

インクのついた足で紙の上を歩いたり、

 

置いてあったコインをどこかへ

 

運んで行ったりしはじめたので、

 

頭にきた僕は、

 

目薬の容器を床へ落とそうと

 

必死になっている小人天狗の結袈裟を

 

つまみ上げた。

 

天狗はバタバタと

 

手足をばたつかせながら、

 

こちらを見上げていたが、僕が手を放すと、

 

大急ぎで走り去ってしまった。

 

それからも、彼らのいたずらは続き、

 

我慢ならなくなった僕が「いい加減にしろ!」

 

と大声で叫んだ途端、

 

彼らはサーッと部屋の隅へ走り去り、

 

それっきりいなくなってしまった。

 

ふと、カーテンの下を覗けば、

 

ポケットの中にあった銅貨や、

 

すり減って小さくなった石鹸や、

 

ラムネの粒や、

 

取れたボタンなどがうず高く積まれていて、

 

僕はやれやれ、

 

と大きなため息をもらしながら、

 

それらのものを片づけはじめた。