ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

化石の人

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カフェでのこと。

注文したコーヒーがなかなか来ないので

ウェイトレスに催促をした。

「コーヒー、まだですか」

「まだです」

その一言にイラついた僕は、

いくら待たせれば気が済むんだ、

とつい大声を出してしまった。

周りの客たちがこちらを一斉に見た。

「分かりません。五分かもしれませんし、

五十分かもしれません」

ウェイトレスは平然と答えた。

「もういい。コーヒーはいらない。」

僕はそう言って、立ちあがった。

店を出ようと、コートを着ていると、

後方で客たちのささやく声が聞こえた。

「まだいるんだね。あんな人」

「うん。久々に懐かしいものを見たわ」

「わざとやってるんじゃないよね」

「いや、あれはどう見ても本気だよ」

コートを着終わった僕が振り向くと、

みんなニヤニヤしながらこちらを見ていた。

中にはそっとこちらに

カメラを向けてくる人までいた。

余計に不愉快になった僕は、

即行その店を後にした。

それからも、

通りがかりの車に水たまりの水をかけられ、

相手の運転手を睨みつけたら

大笑いされたり、タクシーに乗って

遠回りをされて文句を言えば、

運転手からプッ、と噴き出されたりした。

挙句の果てには、

スーパーで買ったりんごに虫食いの穴を

見つけ、レジで交換を要求したら

「いまどき、

わざわざこんな選び方をするなんて。

一体どうやって選んだの?」

と逆に聞き返される始末だった。

「なんだかみんな変なんだ」

その夜、僕は友人に電話を掛け、

今日起こったことをすべて彼に打ち明けた。

「ひょっとして、君は知らないのかい?」

と友人は恐る恐る言った。

「知らないって、何を?」僕が聞き返す。

「全部自分一人で自作自演をして

走り回っている、ッて言うことにさ」

そう言って友人は大声で笑った。