ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

陰きわまれし朝

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徹夜明けの朝、

 

行きつけのオープンカフェのテラス席で、

 

エスプレッソを飲んでいたら、

 

隣のテーブルでタバコを吸いながら

 

ラテを飲んでいる、信じられないくらい

 

化粧の濃い女性と目が合った。

 

彼女は人を挑発するような

 

ショッキングピンクのキャミソールに

 

ミニスカート姿で、

 

金髪の長い髪をアップにし、

 

後ろでひとつに束ねていた。

 

そして彼女の異常なまでに釣りあがった

 

目と死人のような青白い顔は、

 

強烈なインパクトを与え、

 

見る者を釘づけにした。

 

僕が彼女の一挙手一投足を

 

ちらちらと盗み見ながら、

 

エスプレッソを飲んでいると、

 

いきなり彼女から「ちょっと!」

 

と声をかけられた。

 

僕はびっくりして彼女を見た。

 

「ねえ、あなた知ってる?本当はさあ。

 

あなたの中身がオンナでね。それで、

 

私の中身がオトコだってこと」

 

彼女はハスキーな声で、

 

畳みかけるように言った。

 

僕はぽかんと口を開け、

 

その場に硬直していた。

 

「ちょっとアンタ。そこのとこをちゃんと

 

分かってわたしを見ていたんでしょうねぇ」

 

彼女が僕を指さす。

 

「あのう、そのう、あなたはともかく、

 

僕は一応、れっきとしたオトコなんですけど」

 

僕は小さな声でなんとか答えた。

 

「それはあなたの外見(そとみ)のことでしょ。

 

あなたの中身がオトコだったら、

 

あなたはわたしに惹き付けられたりなんか

 

しないでしょうよ」

 

「いったい、何を証拠にそんなことを」

 

ついに我慢ならなくなって僕は叫んだ。

 

「なによ。その言い草。

 

せっかく出てきたやったっていうのに」

 

彼女はタバコを灰皿に放ると立ち上がった。

 

僕も立ち上がった。

 

通路で彼女と向かい合う。

 

互いに格闘技の構えをする。

 

「ホッ!」

 

彼女が気合を入れ、僕にぶつかってきた。

 

あっ、と思った次の瞬間、彼女の姿は消え、

 

僕の目の前には〝僕〟が立っていた。

 

今度はその〝僕〟が

 

再び僕に近づいてきた。

 

身体が触れ合ったとき、

 

感電したようにカラダが震え、

 

気が付けば僕はテーブルの下で

 

腰を抜かしてへたり込んでいた。

 

あたりをうかがう。

 

が、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

 

しばらくすると、店員が駆けつけてきて、

 

僕を抱き起こしてくれた。

 

そして、

 

「エスプレッソをもう一杯いかがですか」

 

と僕に訊いてきた。