ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

いつでもここ

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バス停で突然隣の老人から、

今何時か、と聞かれ、

腕時計を見ながら二時二十分だと答えると

何月何日の二時二十分か

と訊き返されたので、

二月二十日の二時二十分だと答えたら、

「それじゃあ、

どの二月二十日の二時二十分か

分からないじゃないか」

と言って怒りはじめた。

「どのって…じゃあ、

この二月二十日の二時二十分ですっ」

僕はムッとしながら適当に答えた。

すると老人は、

なんでこの二月二十日の二時二十分なんだ

と今度は天を仰いで嘆きはじめた。

「わしはなあ。わしは…」

「だから、なんなんです?」

「わしは、

あそこの二月二十日の二時二十分へ

行きたいのだよ」

「じゃあ、行けばいいでしょう」

僕はつっけんどんに答えた。

バスが来た。僕はバスに乗った。

乗車口の手前で老人が運転手に叫んだ。

「このバスは、あそこの二月二十日の

二時二十分へ行くのかね」

「行きませんよ。このバスはあそこの

二月二十日の二時二十壱分行きです」

運転手が前を向いたまま答えた。

その言葉を聞いた老人は、

両手で顔を覆い、神さまあ、と叫んだ。

「乗るんですか。乗らないんですか」

運転手がイライラしながら言った。

老人を残したまま、

しびれを切らした運転手が扉を閉め、

バスを発車させてしまった。

老人は停留所から去り行くバスを、

じっと凝視していた。