ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

月になりたかった彗星のはなし

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一生懸命お日様から離れようとしている

 

水星を助けたくなったお月様が、

 

水星に向かって

 

しこたま大きなくしゃみをしたところ、

 

その弾みで

 

自分が地球から遠く弾き飛ばされてしまい、

 

気づいた時には、銀河の果てで、

 

わけのわからない惑星の周りを

 

まわっていた、という話を、

 

これまた夕暮れ時のバーのカウンターで

 

バーボンを飲んでいた彗星から

 

聞かされた。

 

「それで、お月様はまた戻ってくるのかい」

 

と僕が訊いた。

 

「さあ、どうかねえ。新しい惑星とは

 

まんざらでもなさそうだったよ」

 

彗星がバーボンをおかわりしながら答えた。

 

「実は、僕が月のかわりに

 

地球の周りをまわってやってもいいかな、

 

って思ってるんだ。」

 

「それはちょっと、勘弁してほしいな」

 

僕が答えた。

 

「なんだよ。

 

僕では役不足だって君は言いたいのかい」

と彗星がムッとして言った。

 

「いや、そうではなくてさ。

 

ただ、同じところを永遠にぐるぐる回る

 

ことに、果たして君が耐えられるか、

 

ということだよ。」

 

「ずっと旅を続けることに

 

辟易していたところでさ。

 

そろそろひとところに

 

落ち着こうかと考えているのさ」

 

「それはよく考えたほうがいいと思うよ。

 

一度軌道に乗ったら最後、

 

抜け出すのはほぼ無理だろうからね。

 

そういう意味でお月様は運が良かった、

 

というべきだろうな」

 

それから僕たちは夜通し語り合い、

 

明け方、彗星は宵の空へと返って行った。

 

見ると、白いお月様が、

 

こちらへ向かってアッカンベーをしていた。

 

僕はお月様に向かって、

 

なんで戻ってきたんだい、と叫び、

 

やれやれ、と大きくため息をついて見せた。