ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

終点近くでさらわれた話

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夕方、路面電車に乗り、

 

家路を急いでいた時のこと。

 

チンチン、とベルを鳴らしながら進む

 

車両のつり革につかまり、

 

ぼうっとしていたら、途中の駅で、

 

月光のように光る顔の男が乗ってきた。

 

スイカ提灯のように

 

目と鼻と口がくりぬかれた顔を見て、

 

以前、地下鉄の車内で会ったあの男だ

 

と気づいた。

 

そのとき、車内の乗客たちを見ると、

 

全員がすでに

 

蝋人形となって硬直していた。

 

「なんで、みんな蝋人形なんですか」

 

びっくりした僕はスイカ提灯の男に訊いた。

 

「もともとみんな蝋人形だからだ。お前もだ」

 

と男は答えた。

 

「どこで降りる?」と男。

 

「次の駅で降ります」と僕。

 

「ふん。そうはさせるものか」

 

裂けた口が一層大きく裂け、

 

顔が一層強く光った。

 

やがて、次の駅で路面電車が停まり、

 

降りようとすると、ホームにいた乗客が

 

一斉に乗り込んできた。

 

見れば、乗り込んできた乗客全員の顔が

 

光るカボチャ提灯だった。

 

「ひええええ。たすけてええ」

 

僕が大声で叫んでいるうちに

 

電車が発車した。

 

そして、僕は身動きもとれないまま、

 

とうとう終点まで来てしまった。

 

はやく降ろしてくれ、と叫んでいると、、

 

ほころんだ空間から突然光が差し込み、

 

彼らはあっという間に、

 

空間の裂け目に吸い込まれてしまった。