ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

玉苑

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玉苑(たまえん)に水銀の滝がある

 

というので、立ち寄ってみた。

 

森のようになった苑内をあちこち歩き回り、

 

水銀の滝を探すがみつからない。

 

人に聞いても知らないという。

 

いつしか日が傾きはじめ、

 

人影もまばらになった。

 

もう帰ろうと思っていたころ、

 

遠くにシャーシャーという何かが流れる

 

ような音が聞こえた。

 

僕は音のする方へ向かった。

 

そして、長い竹やぶを抜けると、

 

突然風景が開け、目の前に高さ三メートル

 

くらいの小さな滝が現れた。

 

近づいてみると、

 

滝の水は水ではなく水銀で、

 

鏡のように周囲の景色を映しながら、

 

なめらかに上から下へと流れ落ちている。

 

見れば、傍らに『水銀の滝』と書かれた

 

木製の立札があった。

 

滝の前に立つ。

 

流れ落ちる鏡の滝に映る

 

自分の姿と対峙する。

 

ふと滝の裏側がどうなっているのかが

 

気になり、地面に落ちていた竹の棒を

 

拾い上げ、滝の中心へ突き刺してみた。

 

左右にゆらゆら揺すってみると、

 

流れの切れ目から、

 

向こう側に誰かいるのが見えた。

 

びっくりして竹の棒を引き抜こうとすると、

 

向こう側の誰かに棒を掴まれた。

 

すごい力で引っ張られる。

 

水銀の中へ引きずり込まれそうになるのを、

 

寸でのところで押しとどめた。

 

それでも相手はぐいぐい引っ張ってくる。

 

だんだん腹が立ってきて、

 

「なんだ、おまえは」と僕が滝の向こう側に

 

いる人物に向かって叫んだ。

 

「おまえこそなんだ」誰かが叫び返してきた。

 

「出てこい」

 

「お前のほうが入ってこい」

 

「何をっ!」

 

僕はまず相手の方へ棒を引かせておき、

 

それから隙を見て一気に棒を引っ張った。

 

一瞬鏡の滝が割れ、

 

中からわっと何かが飛び出てきたかと思うと、

 

またたく間にそれは僕にぶつかり、

 

それから背後へと消えて行ってしまった。