ジンジャー・タウン

星谷周作創作坊

ヒカリのカク

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流れ星がひっきりなしに降り注ぐ夜だった。

 

バーでラムをしこたま飲んだ帰り道、

 

雨に濡れた路上で男が一人、

 

マンホールの蓋を開けようと

 

必死になっているのを見かけた。

 

男は腰を折り曲げ、マンホールに付いて

 

いる開閉用の取っ手を掴み、

 

必至で引っ張り上げようとしている。

 

「ううううーっ!」

 

男は歯を食いしばり、

 

顔を真っ赤にしながら唸っている。

 

「どうしたんですか」僕が訊いた。

 

「どうもこうもないさ。」と彼。

 

「ヒカリのカクが

 

この中に閉じ込められてしまったんだよ」

 

そう言うと男は再び

 

マンホールの取っ手を引っ張りはじめた。

 

よく見ると、男はマンホールのふたの上に

 

足を乗せて立っていた。

 

彼は蓋を踏んづけたまま、

 

その蓋を開けようと頑張っていたのだ。

 

「ちょっと僕にやらせてください」

 

僕は提案してみた。

 

「ダメダメ、

 

ヒカリのカクは俺が見つけたんだから、

 

横取りしようたってそうはさせないさ。」

 

男は遮二無二足を突っぱね、

 

引っ張り続ける。

 

そのとき、ふと思いつき、

 

僕は自分の右足で、踏ん張っている男の

 

足首をパンと、払ってやった。

 

「わあああー」

 

男が仰向けに倒れた。

 

その時、

 

少し開いたマンホールの蓋の隙間から

 

光の塊りがバンと跳ね上がって、

 

シュッと満天の星空に消えていくのが

 

見えた。

 

男は目を回して倒れている。

 

これですっかり

 

ラムの酔いがさめてしまったと、

 

すこし腹立たしい気持ちで

 

僕は再び家路についた。